優れたコースは優れた
芸術

金田 武明
(スポーツ・イラストレイテッド誌 特別顧問)


コースは、生きた芸術である。さらに、クラブも毎日呼吸している。立派な建物、美しいコースという実は、生き物である。

世界の素晴らしいクラブを訪れると、伝統の尊さを感じさせられる。これは数十年、数百年の間、歴代の会員が嬉々としてクラブを育てた結晶なのである。

伝統は、クラブ創立時から始まっている。10月7日、オープニング・セレモニーで、正式にカレドニアンの伝統がスタートする。

セント・アンドルーズ オールド・コースNo.2

頭脳を要求するコース

数多くの名言を残したゴルファーは、球聖ボビー・ジョーンズだろう。1930年、全英、全米両オープンとアマチュアを独占し、しかも28歳で引退、弁護士になってしまった人である。英文学にも造詣の深い紳士だった。周知のように、ジョーンズは名匠アリスター・マッケンジー博士を右腕としてオーガスタ・ナショナルのコースを完成させた。1934年、マスターズがジョーンズの球友を招待する競技として発足したのも、オーガスタという舞台が完成したからである。

ジョーンズのエッセイの中で全く何でもない一節がある。 「まっすぐなボールを続けざまに打つ練習ほど退屈なことはない」といっているのである。

うっかりすると、見逃すほど単純な表現だし、大した意味もないようにきこえる。

しかし、よく考えると、私の練習は何だったのかといった反省も始まる。そして、その後ジョーンズがマッケンジー博士と論じあったコースのあり方にも、その思想がしっかりと続いているのである。「ただ力ばかりでなく、頭脳を要求するコースを造りたい」という考え方が、「誰でも楽しめるコースへ」とスコープがひろがって行くのである。

オーガスタは毎春のマスターズのたび毎に、素晴らしいドラマを演じる場になる。世界のスーパースターが文字通り、呻吟し、打ちのめされる光景もある。勝つための秘術をくりひろげるほど、その確率が高くなる。

それでいてオーガスタは、そこの会員にとってこの世のパラダイスなのである。目的が違えば、コースの様相もがらりと変わる。

危険なルートを避け、安全に淡々とプレーすれば、コースは寛大に受けいれてくれる。はじめて訪れたアマチュアが、生涯最良のスコアを記録するのも珍しくはないのがオーガスタなのである。

この両極端ともいえることが一つのコースの中に共存するのは、ジョーンズの思想が具現化したためである。

カレドニアン・ゴルフクラブのモットー、“TAM ARTE QUAM MARTE”はジョーンズ、マッケンジーの志向の中に流れていたのである。ゲームの内容としてジョーンズが求めたのは、変化だった。力はあっても単調な攻めは厳しく諫める。例え非力でも、考えたルートを発見する人間には寛大になる。

リンクスはゴルフテストの場

ジョーンズがマッケンジーと知り合ったのは、おそらく1921年だったと推測する。セント・アンドルーズで全英オープンが開催され、ジョーンズが11番ショートホールでボールを拾い上げ棄権した年である。ロイヤル・エンシェントの会員でもあった博士が、この時にジョーンズと知り合ったのだと私は勝手に想像している。

ジョーンズはオールドコースを嫌い、再び訪れないだろうとまで口にしたが、実は、リンクスに対する再評価は、この時に始まっていたに違いない。

リンクスでのゴルフは、ジョーンズにとって全く新しい経験だった。ジョーンズ時代のコースは、ごく少数を例外として、一握りのスーパースターにひどく有利にできていた。力の強い者が必ず勝つ。ティーから150ヤードまではラフかバンカー、フェアウェイの左右には、方向の狂ったボールをとらえるバンカーが口をあけている。

そのトラブルを通過さえすれば、グリーンは真っ平らで円型だから、何のトラブルもない。

この考え方は米国だけでなく、日本にも入って来てしまった。誤解に基づいた旧式なコースが、伝統的な古典的なものと信じられていたのである。

ジョーンズの提案を具現化したオーガスタも当初は理解されなかった。しかし、数年の内に正しい評価を受けるようになった。球聖ジョーンズのゴルフに対する考え方に人々は同調し楽しむゴルフを再発見したともいえるだろう。

リンクスは、自然が造りあげた、まさに、ゴルフテストの場なのである。スコットランド人が、リンクスでのゴルフはゴルフ技術ではなく、その人間のテストの場になるとさえいうのは、このためである。

ジョーンズは1927年二度目のオープンをオールドコースで勝ち、1930年引退の年に全英アマチュアにもここで勝っている。

1960年、この町の名誉市民に選ばれたジョーンズは、最大の賛辞をオールドコースに送ったのである。

ジョーンズも、ボブ・ガードナー(米)も、オールドコースに魅了されるには数年を要している。

マッケンジー博士の「よいコースはすぐれた芸術と同じように、心の中で育まれるものだ」とは言い得て妙である。

ボビー・ジョーンズ生誕100年を記念した金田武明氏のカード
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