コースは海から
生まれた

美しい罠に挑む、攻略の快感

「個性」 英国リンクス志向のモダンなコース

リンクスに学び、リンクスを超える

クラブ名「カレドニアン(Caledonian)」とはスコットランドの古称で、今でもネス湖からインバネスの北海まで延びる全長100kmの「カレドニアン運河(海峡)」に、その名を残している。

ゴルフ発祥地、スコットランドへの憧憬を込めて名付けられたコースが1990年(平成2年)、千葉県に誕生して、やがて四半世紀を迎える。

その名の通り、リンクス魂を志向する高度な戦略型の米国式デザインで、球宴・マスターズの舞台のように森と池の美しさが人気の関東でも指折りのコースである。米国人コース設計家、J・M・ポーレット(J.Michael Poellot /1943~)がデザインを担当したのには理由があった。

1990年といえば4年前からのバブル経済末期ながら、ゴルフ場数もゴルフ人口もうなぎ上りで、全国累計で2273コースに達した新設ラッシュの最盛期だった。ゴルフ場経営側もシノギを削る競争の時代、他者との差別化に心血を注ぐ必要があった。外国人設計家の起用でかつての日本にはない目新しいデザインを施し、バブル経済に乗って高額会員権が話題になったものである。

だから1981年に母体会社、東京グリーン株式会社を創設した早川治良社長は「本格的な戦略型コースを造り、世界レベルの醍醐味をゴルファーに提供したい」と考えた。つまり、グリーンは西洋芝のワン・グリーン、世界の名コースに匹敵する攻めがいのある個性的なコースを目指したのだ。

そこで世界のゴルフ史に造詣が深く、JGAゴルフ博物館の設立に委員長として尽力した作家・摂津茂和(1899~1988)に相談した。 「ゴルフとはスコットランド海岸のリンクスに始まり、砂丘と風に負けないプレーで強い精神力を培う紳士のゲームだよ」 という摂津茂和の教えを受けて早川社長はスコットランドを探訪し、“リンクス志向”のコース設計をポーレットに依頼する。摂津を師と仰ぐジャーナリストで、氏の奨めで晩年にコース設計家にもなった金田武明(1931~2006)の紹介だった。金田氏は米国の『タイム・ライフ誌』アジア代表で、設計家のR・T・ジョーンズ親子と親しく、その極東地区のスタッフだったポーレットとも面識があったからだ。英国のリンクス魂を現代的戦略型デザインに込めるポーレットの手腕を認めていたのだ。

早川社長の英国行脚にはもうひとつのエピソードがある。

カレドニアン・ゴルフクラブのラテン語のクラブモットー 「Tam Arte Quam Marte“力と同様に技(知略)も”」 はロイヤル・トゥルーンゴルフクラブを訪れた時に発見し、リンクス魂を表現する素晴らしい標語であったことから、許可を得て採用したのであった。
ローマ帝国の戦闘用語であるこの言葉が、“力を鼓舞して、コースを捻じ伏せる”ようなパワーゴルフ全盛の米国式デザインとは、一線を画するリンクス志向のゴルフを象徴したものだったからだ。

つまり、日本の誇るゴルフ史家と英米のゴルフに明るい設計家という知識人コンビが、このコースを応援したのだ。名誉会員に元首相の細川護煕や日本アマ選手権6勝のアマチュア名人・中部銀次郎の名があり、クラブ内に知的雰囲気が充ちているのはそのためであろう。

「歴史」 戦略性を増す設計セオリー

ゴルフは“角度”と“距離”のゲーム

米国式デザインとは? 英国に発祥したゴルフが米国に移ったのは1888年、ニューヨーク・ハドソン川の牧場にセントアンドリュースゴルフクラブが創設されたのが発端だった。以来、米国人によるコース設計の歴史は原点のリンクスを訪ね、設計の基本を学ぶことから始まった。母なる自然が造ったコースで球技の醍醐味を演出する造形を身に付けることが設計家の条件だったからである。

1910年~30年代前半までに米国に生まれた名コースはそのすべてがリンクス志向で、C・B・マクドナルド(ナショナルゴルフリンクス・オブ・アメリカ)やH・ウィルソン(メリオンゴルフクラブ)など傑作が今でも残っている。設計史ではこれを「コース設計の黄金時代」と呼んでいる。

英国でコース設計をする仕事は全英オープンチャンピオンなどプロの副業であった時代が長い。しかし、近代になって大卒のアマチュアゴルファーが設計の専門家として登場する。それがH・コルト(1869~1951)& C・アリソン(1882~1952)だ。この2人はオックスフォード&ケンブリッジ大ゴルフ部の代表選手で、リンクスを研究して新しいコース設計理論書『Some Essay on Golf-CourseArchitecture』(1920年刊)を発表する。

その内容のキーワードは3つ。1.科罰型から戦略型設計へ。2.オプショナル・キャリー(任意のキャリーボール)。3.対角線デザイン。 1は、ただ単に苛めるだけのハザードを排し、効果的にバンカーを配置してホールに多くの攻略ルートを用意する。2は、谷やブッシュをキャリーで越えるショットを要求する。3は、目標を斜めに置いて、対角線に攻める。

この近代的デザインで欧州・米国で活躍したコルト&アリソンは日本にも廣野ゴルフ倶楽部、川奈ホテルゴルフコース富士コースを設計、日本ゴルフ界にコース造りの夜明けをもたらした。来日したのはアリソンで、深いバンカーにその名を残すことになった。

実はJ・M・ポーレットのカレドニアンGC設計で特徴的なことは、この3要素を斬新で美しい景観とともに実施していることである

「ひとつとして類型のホールがなく、戦略性に富んだ18ホールがそれぞれ連繋し、ハーモニーを奏でます。際立った個性がプレーヤーに強烈な印象を与えるはずです」 と彼が自信を持っていうのは、ゴルフの歴史と伝統に裏打ちされた設計哲学が背景にあるからだろう。

彼のいう「ゴルフは“角度”と“距離”のゲーム。この二律背反の矛盾をゴルファーが頭脳と技術で解決するのがプレーの醍醐味です」。これはまさにコルト&アリソン理論の“対角線(Diagonal)設計”の別な表現で、彼が“オルタネート・セオリー(Alternate Theory /二者択一の原則)” というのと同じ意味。危険を承知で攻めるか、手堅く迂回するかをプレーヤーに問いかけているのだ。

目標のフェアウェイやグリーンを斜めに置く設定はスコットランドのノースベリックゴルフクラブの15番ホールの愛称から“レダン”型とも呼ばれる。カレドニアンGCでプレーする人は随所にこの状況に立ち会っているわけで、「だから面白く、醍醐味があり、挑戦しがいがある」と実感していることであろう。

「誘惑」 斜めのターゲットを狙う

世界の名ホールを体験する

代表的なホールを挙げて具体的にみてみよう。

名物の最終ホール18番(555ヤード・パー5)は池と渚状のバンカーを越して打てば2オン可能とまでは行かなくてもベストルートになる。もちろん左側に迂回ルートがある。この設定を「ドッグレッグ」と設計家は呼ばない。池の先のベストポジションを斜めに置くだけだからだ。中途半端に池を越すと、ポットバンカーに捉まるのはそのためだろう。そして、グリーンを狙うショットも左右に長く斜めに置かれた目標に池と渚バンカーを越す必要がある。つまり、“角度”と“距離”の正確さを要求している。腕前に応じたルートを選択した上で、それぞれのショットバリューを問いかけている。「コースとはショットの価値を数字に置き換える競技場」だからである。

危険な池を越すか、迂回するかで代表的な名物ホールに13番(407ヤード・パー4)がある。池に沿って右直角に曲がるフェアウェイを最短距離で狙えば第2打が有利になる。 “危険と報酬(Risk & Reward)”という設計セオリーがプレーヤーを誘惑している。まさに“角度”と“距離”でプレーヤーの技量を設計家は測ろうとしているのだ。

米国へ移住して成功した英国人、A・マッケンジー博士に「理想的なコース設計の13箇条」がある。それによると「18ホールにバラエティを持たせるためには距離の短いパー4を数ホール交ぜる」という。

その代表例が14番(392ヤード)で、打ち下ろしの第2打で狙うグリーンの右半分がマウンドで隠されたブラインドになるのがミソだ。もう一つ、16番(343ヤード)はフェアウェイ以外のラフに荒波のように大小のマウンドが連なり、18ホールの中で最も小さいグリーン(360m²)が半月状に砲台となる。フェアウェイという航路を外すと荒海に船が難破するというイメージが浮かぶ。

こうした不定形で起伏豊かなグリーン(平均606m²)がポーレット設計の特徴で、ピンの位置次第でさらに難度は増す。 グリーン奥目に立つピンは赤い旗になるが、おそらく0.5ストローク以上の差を生むはずである。

また、世界の名コースに比肩するデザインを目指すポーレットは、歴史上に有名な名ホールを意識的に採り入れる。カレドニアンGCと同系列の富里ゴルフ倶楽部では、7番パー3ホールにサイプレスポイントクラブの15番をコピーした。ここカレドニアンGCでは15番(498ヤード・パー5)で池とクリークをグリーンに絡ませて、オーガスタナショナルゴルフクラブの13番を彷彿させる。マッケンジー博士と球聖・ジョーンズの合作アイデアの“パー4.5”のドラマ演出を狙った名ホールを、ここに再現したのだ。

一頃は「ワイドでフラットな林間コース」が良いコースのキャッチフレーズであったが、そんな時代が懐かしいほどに世界レベルのコースがここに存在する。 戦略性に富み、何度でも挑戦したくなる設計の奥深さを堪能してほしい。
“良いゴルファーは良いコースに育まれる”のだから……。

文/西澤 忠 写真/細田榮久『Go!go!』2013年4月号より

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