阪田哲男のカレドニアン

『線』でなく『点』のゴルフが求められる稀有なコースだ

「力と同様に知略も」の言葉を標語に掲げるカレドニアン・ゴルフクラブ。ここでは力ずくのゴルフは通用しない。頭を使った知的なゴルフこそが攻略の扉を開いてくれるという、戦略型コースの理想形がそこにはある

中部銀次郎さんも戦略性の高さを愛した

私のゴルフの基本は「線のゴルフ」である。グリーン周りは原則として転がしていく。サンドウエッジで上げていくのは、そうしなければよらない状況に陥った場合のみ。いわば最終手段である。
アプローチ以外でも、たとえばラフからグリーンを狙うショットなどは「花道から転がしていこう」と考える。このように「線」で考えるゴルフはシンプルであり、失敗の危険性が低い。現役時代、「線のゴルフ」を貫いたからこそ、多くのタイトルを手にできたのだと思っている。

しかし、稀に「線のゴルフ」が効かないコースがある。その一つが千葉県山武郡にあるカレドニアン・ゴルフクラブ(以下、カレドニアンGC)だ。ここは「点」で攻めなければ通用しない。

カレドニアンGCができたのは平成に入ってからだ。はじめて訪れたのは開場後それほど年数が経っていない頃だった。現代風のアメリカンスタイル
にゴルフの故郷といえるスコットランドの味を絶妙に加えた何とも美しい、それでいて厳しいコースだと一目で魅入られた。

中部銀次郎さんは晩年、カレドニアンGCをこよなく愛し、良くプレーされていた。中部さんとこのコースについて語り合う機会はなかったが、やはり戦略性の高さや厳しさ、景観の素晴らしさに魅(ひ)かれていたのだと思う。

スタート前、朝食を摂りながらラウンドにお付き合いいただくカレドニアンGC競技委員長の渡辺明彦さんにグリーンについて聞いてみた。いつ来てもグリーンのクオリティが非常に高いことに感心していたからだ。「さまざまな芝種を研究、テストを繰り返して10年ほどまえから現在の第五世代(タイイ~777)でいこうと決められてきたと聞きます。最高グリーンスピードは14フィートを越えて出してきています」(渡辺さん)

14フィートといえばマスターズのオーガスタ・ナショナルGCと比肩する。
並大抵の努力で成し遂げられるものではない。

広いフェアウエイだが、狙いどころは実は狭い

渡辺さんと1番ティに立った。ランディングエリアのフェアウエイは広く、気持ちよく振って行けるスタートホールである。

カレドニアンGCは全体的にティショットの景色が広々としている。余計な圧迫感を与えるホールはほとんどない。しかし、グリーンに近づくにつれて狙い場所が絞られてくる。うねりのあるグリーンは、ピンのあるエリアにきっちり打てるショットを求めている。段やマウンドが介在するラインに乗れば、3パットのピンチである。

つまりは、ティショットでフェアウエイ、それも狙いやすい場所をキープすることが絶対条件になってくる。それを知れば、広々とした景色の中にピリッとした緊張感が走る。

1番ならばフェアウエイの右サイドが理想。グリーンの入り口が正面になる。グリーンは左奥に伸びる角度がつけられているが、左サイドにボールを置くと、たとえフェアウエイであってもピン位置によっては厳しいアングルになる。

2番はグリーンまで見通せるパー5だ。「フェアウエイは左に傾斜していますので、ドロー系の方はラフまで転がりやすいです」と渡辺さん。頭に入れておきたい。

私は2打目でピンまで60ヤードほどの左ラフにボールを運んだ。奥行き51ヤードと縦長の3段グリーンの最上段。段差のすぐ上にピンがある。グリーンエッジからピンまでは30ヤード以上。通常ならば脚を使っていくのだが、60度のウェッジをもってピンの根元に狙いを定めた。これが冒頭で述べたような「点」で攻めなければ寄らない状況。思い切りの良さと技術を試される。

一般的な常識では攻略できないホールも

3番はひょうたん形のグリーンが横に配置されている。くびれた中央部は奥行きが10ヤードあるかないか。この日ピンが切られていた右サイドでも15ヤードほどしか奥行きがない。乗せるには正確なキャリーの計算と、それを実行できる腕が不可欠だ。

4番パー4はバンカーの配置がいい。正面に見えるバンカーは「ここを越してこい」と語りかけてくる。飛距離が出る人は楽に超えるが、飛ばすだけではいけない。フェアウエイの向こう側にもバンカーが待ち受けているから、きっちりと飛距離を計算しないといけないからだ。飛ばない人のために左に逃げるルートがあるのもいい。

グリーンは手前部分が細く、中央部から奥が広い形状である。この日のピンポジションは手前の細いところ。幅は10ヤード余りだ。「このピン位置は意外と難しいです。色気を出してぴったりの距離で狙うと、少しぶれただけでグリーンを外れてピンチになります。オーバー目に奥の広いところに打つのがいいのですが、分かっていてもなかなかできないですね」と、渡辺さんが興味深い話をしてくださった。ピン位置によっては「手前から」ではなく「奥から」が正解。一般的な常識だけでは攻略できない。こういうところもカレドニアンGCの面白さである。

阪田哲男のこだわり

理想的なスタートまでの動線
ドライビングレンジは300ヤードと広大で気持ちよく打てる。特筆すべきはその場所だ。クラブハウスからスタートホールに向かう動線上にあり、しかも1番、10番のティグラウンドは目と鼻の先。まさに理想的な導線を実現している。

より戦略性を高める池とバンカーが見事な景観もつくる

青々とした池に白い渚バンカーが映える。
戦略性の高いカレドニアン・ゴルフクラブは見事な造形美でプレーヤーに感動を与えてくれるコースでもある

池ポチャもあり得る高速グリーン

カレドニアン・ゴルフクラブは随所に現れる池が戦略性を高めると同時に見事な景観をつくり出している。1番からスタートして最初に池が存在感を示すのが5番のパー3。2番の左サイドにも池はあるが、まっとうに攻めていけば気になるほどのものではない。しかし、ティグラウンドの前からグリーンの右サイドまで広がる5番の池は避けて通ることはできない。

ティグラウンドは7面もある。場所によって距離はもちろんのこと角度も違う。この日プレーしたブルーティは右側。こちらからではピンがどこにあってもまともな池越えになるが、景色は好きだ。

グリーンは左から右奥に伸びる横長。中央部には尾根がある。ピンを右に切られると、池の存在感は一層増してくる。「ピンが右にあるとき、安全に左に乗せると尾根を越えていくラインになりますから、パットが大変です。

下りで加速していけまで転がり落ちるシーンを何度も見ています」と渡辺さんのお話しです。これも、マスターズ並みのスピードが出せる超一流のグリーンだからこそのエピソードである。

6番のパー5も池が絡むが、特徴的なのはグリーンだ。変則的な3段グリーンで、違う段に乗ってしまうと3パットの危険性が高まる。とくに右奥の狭いエリアにピンがある場合は、点を狙える高い精度のショットが必要になる。

傾斜をどう攻略するか戦略が問われてくる

右にグリーンが振られている7番パー4を経て、タフな8、9番に入る。ともに手前のホワイトティからでも400ヤード超。飛び切りの難所である。8番はフェアウエイにある大きなケヤキが目につくホールだ。このケヤキのところには大きな段差がある。渡辺さんは「段差の手前の平らな場所が狙い目です。ケヤキの横まで行くときつい傾斜からのショットになります」と攻め方を解説してくれた。その言葉通り、渡辺さんは平らなライから残り195ヤードの2打目をグリーン手前の花道方向に運び、3オン1パットでパーをセーブした。

グリーン左側にはバンカーが連なっている。長い距離から無理に狙うのではなく、寄せやすい右サイドに置いてアプローチで勝負。王道の攻め方を示していただいた。

9番のティショットは伸び伸び打てるが2打目が楽ではない。グリーン奥は下り傾斜。突っ込んだショットはボールがことごとくグリーン外へと流されてしまう。

タフな上がり2ホールをいかに切り抜けるか。それがスコアをまとめるカギであると思う。

長い2ホールを過ぎるとインは10、11番と比較的距離の短いパー4で始まる。10番は右のコーナーには大きなバンカー。条件がよければ私はこのバンカーの左端のラインに打っていく。うまくいけば2打目はショートアイアン。しっかりとパーの「4」。あわよくばバーディの「3」をスコアカードに書き込みたい。11番はほぼストレートなホールだ。フェアウエイのセンターには縦に段差が走っている。この段差にかかればけっこうなツマ先上がりからのショットを強いられる。

阪田哲男のこだわり

後続のプレーヤーのために
カレドニアンGCではバンカーレーキの頭をバンカー内に入れ、柄を外に出す置き方を推奨している。
レーキの置き方については外置きや内置きなどもあり議論が分かれるところだが、私はカレドニアン方式が最も理にかなっていると思う。5番7つのティグラウンドごとに池の先にあるグリーンの攻め方が変わってくるパー3。

頭を使って攻めてこそ18ホールそれぞれの本当の面白さが分かる

「ゴルフは耳と耳の間でするゲーム」という言葉がある。
カレドニアン・ゴルフクラブは、まさに頭を使ってこそ本当の味が分かる。
フィニッシングホールは美しさと戦略性に満ちあふれている。

短い距離のホールこそ高い技量が試される

カレドニアン・ゴルフクラブはアウトとインで距離がかなり異なる。最も後ろのゴールドティを例にあげれば、アウトが3680ヤードでインが3464ヤード。その差は216ヤードだ。パー3は、むしろインの方が長い。距離の差があるのはパー4とパー5である。とくに14番からの3ホールは短めのホールが続く。だからといってやさしいというわけではない。高い技量が試される、非常に味のあるホールなのだ。

14番はパー4。2打目からは打ち下ろしており、ティグラウンドからグリーンは見えない。フェアウエイ両サイドのラフに点在する小ぶりのバンカー群が印象的だ。王道の攻め方は、フェアウエイセンターの延長線上にある最も遠いバンカーの手前に置くことだろう。使用ティや風向きによってはこのバンカーを越えていくことも可能だが、2打目が左足下がりのラフからのショットになる危険性が高いから、あまりお勧めできない。

カレドニアンGC競技委員長の渡辺明彦さんが、攻略への秘策を授けてくれた。「このホールはティからピン位置が確認できませんが、実は3番から4番に向かう途中で14番グリーンが見える場所があるのです。私はいつもそこでピン位置を確認しておきます。ピンが右サイドの場合、ティショットを左サイドに打つと狙いづらくなりますから戦略も変わってきます」

コースを熟知したメンバーさんならではのラウンド術である。

オーガスタ・ナショナルの13番の姿が重なる

15番は右に曲がっていくパー5だ。ゴールドティからでも500ヤードを切る。2オンにチャレンジしたくなるような距離である。

ティショットがうまくいけば、2オンへの誘惑はさらに強くなる。しかし、縦長のグリーンの右サイドから手前にかけて流れるクリークが静かに重圧を与えてくる。攻めるのならば大胆に、刻むのならば徹底して刻む。いずれにしろ生半可な気持ちでは攻略できない。

グリーンの景色はオーガスタ・ナショナルGCの13番とどこか似ている。渡辺さんによると5月にはグリーン周りがツツジの花で埋め尽くされるそうだ。オーガスタ13番の愛称は「アザレア(ツツジ)」。なるほど、合点がいった。

続く16番はゴールドティからでも343ヤードという最短のパー4である。ここのフェアウエイは小さいから外さないことが絶対条件だ。「全体的に左に傾斜していますからフック系のボールはどんどん左に転がっていきます」と渡辺さん。左のラフ、そしてフェアウエイが切れた先にはマウンド群がある。厳しいライかるたされることは避けられない。

このホールだけはグリーンが二つ。どちらも小ぶりだから、ややこしい傾斜のラフからではどうしようもない。だから、フェアウエイを死守したいのだ。短いからといって欲をかくと痛い目に遭う。

飛距離と技量によって狙うルートが大きく変わる

17番は縦長のグリーンがちょうど45度の斜めに配置されたパー3打。スコットランドのノースベリックGC15番パー3のグリーンと同じで”レダン”の名称がつくコース設計上のホールである。左は深いバンカーとガケ。右にはグラスバンカーが待ち受けている。どこにピンがあっても、ワンポイントで攻めていかねばならないホールだ。

そしてラウンドを締めくくる18番は水が絡んだ、美しく戦略的なパー5だ。

プレーのルートは飛距離や技量に応じていくつもある。私のティショットの狙いは、池を越えてフェアウエイの中央に見えるバンカー方向。飛距離自慢はもっと右に打って最短ルートを攻めてもいい。逆に安全に行くなら左方向だ。グリーンは右に首を振った形である。グリーンの前には13番との間の大きな池が広がり、白砂の渚バンカーが映えている。

ホールアウト後、渡辺さんがクラブのモットーは『TAMARTE QUAMMARTE』というラテン語だと教えてくれた。「力と同様に技(知略)も」という意味だそうである。今、パワーゴルフの時代になったが、ゴルフはやはり頭を使えるものが本物。カレドニアンGCは頭を使ってこそ、ほんとうの味が分かるコースだと思う。

いいコースはゴルファーを育てる。よりゴルフを好きになっていただきたい。と願ってやまない。

阪田哲男のこだわり

ゴルフの奥深さを学べる書籍コーナー
クラブハウス2階に国内外のゴルフ関連書籍を集めたコーナーがある。
ボールを打つだけでなく、時には読書でゴルフを学ぶのもいい。
メンバーが充実したクラブライフを過ごせる一角だと感じ入る。

(週刊パーゴルフ2016/vol.33・34・35 “阪田哲男 名コース巡礼” より転載)

阪田哲男
1949年生まれ、大阪府出身。
日本オープンローアマ4回など総タイトル数100以上のアマチュアゴルファー。
84年の世界アマでは個人メダリストに輝き、日本を初の世界一に導いた。
コース造成の監修を務めたこともあり造詣も深い。
渡辺明彦
カレドニアンGC運営委員会副会長
競技委員長であり研修会会長
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