米国のコース100選の
基準

米国のコース100選は8つの厳しい基準で評価される

アメリカのゴルフ雑誌『ゴルフ・ダイジェスト』誌と『ゴルフ・マガジン』誌がそれぞれ「世界名コース100選」を選定していることはご存知のことと思います。世界のゴルフに精通した100人前後のセレクターたちで構成される「100選コース選考委員会」で、厳正な基準のもと、世界の名コースを選出しています。日本から今までに選ばれたのは、廣野や川奈などほんの数コースにすぎません。

そんな中、なんとカレドニアンGCは過去10年以上にわたり、毎年ノミネー卜されてきました。カレドニアンはモダン・クラシック時代を画するスコットランド志向の名コースとして、世界から高く評価されてきたのです。日本の国内雑誌の、あいまいな基準での評価とは別格の、世界基準での本物としての評価を受けているコースであるということを、会員の皆様は誇りにしてください。

なお、今年度はカレドニアンのほかに廣野、鳴尾、パインレーク、古賀、川奈、東京倶楽部、霞ヶ関(西)、日光、大洗、箱根、小樽、北海道クラシック、がノミネート(候補)コースとなっています。世界をまわっているセレクター(選考委員)が、アメリ力などから来日して視察プレイを続けています。

金田武明先生がコースの評価基準を、次のように書かれていますのでご紹介します。

金田 武明
( 日本ゴルフコース設計者協会・名誉理事)

ゴルフ・ダイジェストの創始者、ビル・デービスは根っからのゴルフ好きで、晩年になってもゴルフへの意欲が強かった。ゴルフ全盛時代の1970年にデービスが思いつき、発足させたのが“米国の100選(グレーテストという言葉を使った)”だった。

デービスは「コースに点数をつけ、順位をつけてみたら面白いというだけのアイディアだった」と、若かりし頃の自分を想い出しながら語ってくれた。結論としてまったく予想以上の大成功で、副産物も多かったのである。ビジネスとしても発行部数が増え、広告収入も大幅にプラスとなった。

そればかりか、この“ 100選”を選ぶための条件が、あっという間に教科書となり、その条件を満たすための競争になり、全米のコースが進歩せざるを得なくなったのである。

“セレクター”という存在も大きい。ロー・ハンディキャッパーに限られるアマチュアとプロゴルファー、合計660人がセレクターになる。セレクターは完全なボランティアで、旅費(交通費、宿泊費)、グリーンフィなどは自己負担である。友人を連れてプレイする可能性はあるが、友人も費用を負担する。

ボブ・マッコイ氏もセレクターの一人だったが、確か元弁護士で、世界中の名コースをプレイして歩いている。少なくとも6、7年にわたり、自分のプレイしたコース名、彼の印象を克明にプリントして送ってくれていた。元弁護士というだけで、これだけ優雅に暮らせる米国人がうらやましく思えたものだ。

年間、12コースから75コースもセレクトにかかわる人たちがいる。もちろんボランティアに違反した場合は資格を失うが、生涯失格という厳しいルールである。この100選のコース選考の基準条件は次の8項目である。


1.ショット・ヴァリュー
〈Shot Values〉
最も重要視されるポイントで、この条件だけはポイントを2倍して計算する。クラブごとの飛距離、正確性、次のショットへの関連性など条件も高度である。
2.スコアへの抵抗度
〈Resistance to Scoring〉
チャンピオンシップ・ティからスクラッチ・プレイヤーがプレイし、フェアでありながら、どれほど難しいか。
3.デザイン・バランス
〈Design Balance〉
距離、地形、ハザードの位置、グリーンの形状、アンジュレーションなどが変化豊かにコースを造りあげているか。
4.メモラビリテイ
〈Memorability〉
各ホールに個性があり、しかも、1番から18番まで一貫した流れがあること。プレイ後、明確に各ホールが印象的であること。単調さを極力避けること。
5.エステティックス
〈Esthetics〉
景観の美しさがゴルフをより楽しいものにする。オーガスタ・ナショナルに代表されるコースの美しさである。
6.コースのコンディショニング
〈Conditioning〉
評価するためにプレイした日のティ、フェアウェイの整備、グリーンのスピード、バンカーの砂の状態など細かく見る。しかも、2年に1回ずつ発表されるから管理の人も会員も安心はできない。
7.伝統
〈Tradition〉
どのような歴史がつくられてきたか、公式競技を開催したか、コース設計はどのように寄与したかなど。古いクラブは有利だが、それだけではなく、ゴルフの歴史に対する関心度も考慮に入れられる。日本ではまったく無視されている点だ。
8.歩けること
〈Walkable〉
米国ではコースを歩けることの重要性を大切にしている。カートしか認めないコースは得点が少なく、いつでも歩いてラウンドできるコースにボーナスポイントが与えられる。
“米国の100選”で大切なポイントは、冷静で、客観的な観察によって各コースの順位が大きく上下する点である。たとえば、ベスページ州立公園のブラックコースは46位に入っていて2000年の全米オープン開催で評判をとったが、2004年は100選から漏れてしまった。カリフォルニアのスパニッシュベイも同様に100選に入りそこなっている。このような厳しさが、米国全体のコースをよりよいコースに造り上げているのである。

ゴルフ・マガジンも約十年遅れて“グレートコース”を始めたが、こちらは米国だけでなく世界を視野にしている。おそらく、将来はゴルフ界に大きな貢献をするに違いない。私は幸いにして“ 100選”の内、45コースをプレイするチャンスを得たが、毎シーズンの努力は必要だった。100のほかに、一般ゴルファーの選ぶ“ベスト・プレイセズ・トゥ・プレイ”もある。よい情報がよいコースを生む。その意味で、わが国は恵まれているとはいえない。

サイプレス・ポイント

「世界」伝えた先駆者 金田武明氏死去

日本経済新聞・編集委員
工藤 憲雄

1956年のマスターズでは球聖ボビー・ジョーンズのカートに同乗した

日本経済新聞連載コラム「ぐりーん・さろん」でおなじみだった金田武明さんが10月17日、亡くなったことがわかった。享年75歳。1970年から87年まで週に一回、長期連載されたこの知的なゴルフコラムは、当時の多くのビジネスマンを魅了、話題を提供した。「スポーツ・イラストレーテッド誌アジア代表」という肩書きが懐かしい。

バブルで崩壊した日本の失意の時代の97年から2年間、このコラムを再開し、ゴルフの復活を鼓舞している。

ジャック・ニクラスやアーノルド・パーマーという当時あこがれの米国のプレーヤーの技や心をこれほど巧みに伝える人はいなかった。米国留学で築いた語学力とアマチュアゴルフで鍛えた腕(霞ヶ関CC、相模CCのクラブチャンピオン)があったればこそ。

ゴルフとともに歩む人生を決定的にしたのが56年、球聖といわれるボビー・ジョーンズとマスターズの練習日に出会ったことだ。

ジョーンズに記念写真をお願いすると快くゴルフカートに同乗させて「トム・宮本(宮本留吉プロ) は元気かい」と話しかけてくれた。その偉大な包容力に25歳の若者はゴルフの奥の深さと人間の寛大さを知る。学生ゴルフの戦後の復興に尽力、日本に世界のゴルフを紹介する「先駆者」としての役目を負ったのも自然の流れだった。

その翌年、中村寅吉ら日本が奇跡の優勝を遂げるカナダカップを解説した。これはゴルフ初の実況中継でもあった。

3年前のちょうど今ごろ、見事な紅葉に包まれた岩手県のメイプルカントリークラブ(金田氏設計)で夫人の博子さんや友人を伴い楽しく過ごしたのが最後のゴルフとなった。「人に迷惑をかけないこと」。このゴルフの最小の命題が守られていないことが気掛かりだったと思う。

(日本経済新聞 平成18年10月25日付より)

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