超高速グリーンは別世界 変化と戦略性を際立てる

パッティングを
再びゲームの中心に

高速グリーンの時代が
やって来た!

西澤 忠

まるで鏡のような速いグリーン!?そんな高速グリーンの時代がやってきた。米国のプロ・ツアーではいつまでも転がり続けるボールの行方に観衆が興奮し、ゲームが盛り上げるからだろう。急速に進化した用具とプロの技術が時代を経た名コースを易しい舞台にしてしまったからに違いない。

歴史をひも解けば、「マスターズ」を開催するオーガスタナショナルGCがグリーンにベント芝を採用したのは1980年。起伏の大きいグリーン芝を芝刈り機とメンテナンスの発達で3ミリ台に刈れる時代になった。スリルと興奮を呼ぶゲームを愛するマスターズが一層華やかなゲームを演出している。

想い出せば観戦記を書く雑誌記者の時代、1977年の試合(トム・ワトソン初優勝)を観た。試合後、コースをプレーする機会に恵まれた。バミューダ芝のグリーンは遠くから見ると緑一色のように見えたが、グリーンに乗って足元の芝グリーン面を見て驚いた。芝草は細長くまだらに生えているだけで、ほとんどが砂地のグリーンだった。「これはサンド・グリーンか?」と思った。強い転圧でボールの転がりは速く、起伏によってはどこまでも転がるのだった。

設計家のピート・ダイに言わせると、1980年代のツアー・コースは3ミリ以下に刈って、スティンプ・メーターで11フィートの速さが可能になったという。しかし、それも昔の話。今や13~14フィートの速さを出せるというから驚く。

彼の設計で話題を集めたTPCソウグラス“スタジアム”コースは当初、速いグリーンを硬く仕上げたので、ニクラスやワトソンから非難を浴びたもの。ニクラス曰く「ロング・アイアンで車のボンネットの上にボールを止めろと言うのか!」とまでクレームをつけ、改造された経緯がある。

芝刈り機は歯の厚みがあるので、速くするのは転圧機の仕事で、3ミリ台に刈り込んだ芝草を押し潰して寝かせ、速さを出す。日本のトーナメントでもこれが常識になって久しい。18ホールのグリーンを等しく速く硬いグリーンにして、極限の技術を競わせるという時代が到来した。

カレドニアン・ゴルフクラブNo.9

14フィートの速さに挑戦!

カレドニアンGCと富里GCでは今年の春から“14フィートに挑戦!”というキャンペーンを行っている。世界のプロ・トーナメント並みの高速グリーンを堪能して欲しいという企画。この狙いを早川会長はこういう。

「これまでスコットランド・リンクス思想を基本にした戦略性の高いワン・グリーンのコースとして愛されて来ましたが、関東近県の名門コースがベント芝ワン・グリーン化改造をしたりして、うちと似たグリーンを造り始めた。時代の先端を走って来た者として300ヤード時代に挑戦する必要を感じたのです」

J・M・ポーレットの設計は英国のリンクス思想に米国式造形を施し、時代の先端を行く難グリーンで知られて来たのは事実。平均600平方メートルの変幻自在なグリーンがゴルフのもう一つの醍醐味であるパッティングを興味深いものにした。コンター(起伏)が複雑で「グリーンに乗れば2パットでOK」とは行かない面白さがあった。だから、一つのグリーンでも旗の位置によっては攻略ルートが変化するのもここでは常識だった。

それを更に難度を上げて、高速グリーンにしようというのである。しかも、その高速グリーンを転圧機で硬くするのではなく、芝草の正しい生育方法で演出しようという方式である。芝草に健康な育ち方をさせると、夏の暑さにも負けず、健康な芝根が強さを持つというのだ。

ベント芝のワン・グリーンはカレドニアンと富里2コースのトレード・マークとして多くのビジターやメンバーに愛されて来た。しかし、開場以来20年余りの年月で、コースの見直しも余儀なくされるもの。これまでバンカーの配置、バンカー・エッジの老朽化の修復とメンバーの目につく改修は数多い。しかし、速いグリーンの実現にはもっと根本的なグリーン床の改修が必要となった。ご存知の通り、グリーンの床構造とはUSGA方式(全米ゴルフ協会のグリーン・セクションが研究・提案している粒子の異なる砂利と砂質の構造)が一般的で、コースのある地域の気候条件で変わるが、基本は同じである。砂利や砂で排水と保水をコントロールする訳である。しかし、時代を経るとこの床構造に不純物の堆積で不透水槽が出来やすい。

当コースはグリーン上から25 センチ前後までバーチカル・ドレインで穴を開け、その不透水層を撹拌して地下構造を改善、有機肥料で根を健全に育つように促すことにした。これはグリーンの画期的な更新作業で、芝草の根が正しく発育し、硬いグリーンを実現するために採用した。

「そうした根本的地下構造の改善で、芝草に密度、根の健全な張り方が実現、初めて2.8ミリの刈り高で14フィートのグリーン・スピードが実現するのです」と早川会長は胸を張った。速いグリーンの形状は昔のままだが、目に見えない床構造と芝草の根の張り方はまったく新しいグリーンになったのである。

さて、14フィートの速さを持つグリーンとはどんなものだろうか? 現在の一般プレーヤーは冬は乾燥時季に速さを感じてもせいぜい10フィート前後だろう。ちなみに昨今の日本のトーナメントは水を切り、転圧して12フィートくらいが普通である。それでもトップ・プロでさえ惑わされるスピードであることはTV観戦した人には分かるだろう。ただし、石井グリーン・キーパーは「速さを出した時にはホール・ロケーションに神経を遣う」と言っている。スティンプ・メーターの数字は比較的平坦なグリーンで往復のテストで平均値を出すもの。同じ14フィートでも下り傾斜ではより速くなるので、カップ位置に配慮が必要になるのだ。

「これでポーレット設計の戦略性はさらに上がるでしょう」と早川会長は言う。時代の先端を行くカレドニアンGCと富里GCのグリーンがまた新たに“高速グリーン”で話題を呼ぶことは間違いないだろう。

マスターズと同じ14フィートの高速グリーンで
“知的”でプレイアビリティに富んだゴルフを提供する

「マスターズのように14フィートのハイクオリティグリーンでゴルフの真髄を楽しむ」そんなコンセプトのもとに、通常の一般プレーでメジャートーナメント級の高速グリーンを提供しようというゴルフ場が現れた。

かつて日本プロゴルフ選手権をはじめ男女のトーナメントを数多く開催して知られる「カレドニアン・ゴルフクラブ」と「富里ゴルフ倶楽部」(共に千葉県山武郡)である。両コースとも世界的に知られる米国のコースデザイナー、ジョン・マイケル・ポーレット設計のハイグレードなコースである。

自然との調和と、人間の英知を結集したモダンクラシックの作風は、あまたある日本のコースの中でも一際異彩を放っている。

鏡のグリーンを求めて

高速グリーンになるとプレーヤーは感覚、技術、精神力をフル稼働させないと対応できない。

ではなぜカレドニアンや富里があえて超難度の14フィートに近づけようとするのか。

そこにはホンモノにこだわる創業者の早川治良氏の哲学が背景にある。

早川会長は「グリーンを速くするとゴルフが知的なゲームになります。大勢の方にそんな知的な楽しみを味わっていただき、ゴルフの深さをより知っていただければという思いが、今回の決断となりました」「マスターズ並みの14フィートの高速グリーン」というのは1つの目標で、決して同じにするという意味ではない。

ただ一般営業でプロトーナメント並みの高速グリーンを維持するというのは、プロツアーでのそれより実ははるかに難しい。というのもプロ競技なら練習日を含めてー週間高速を保てばいいだけの話。期間中芝を低刈りにし、ローラーをかけて硬くツルツルにすればいい。だが試合が終わると芝はストレスに耐えかね、回復が極度に難しくなる。

高速グリーンの常態化は難事業

高速グリーンを維持する。その裏には血の滲むような努力と、芝に対する高度な知識、愛情、取り組みがあることをゴルファーも知っておく必要がある。

ベントグラスを高品質に保つためにはいろいろ条件がある。管理者側からすれば、(1)いつでも低刈りが可能なこと。(2)適度な保水性と保肥力があること。(3)潅水が十分にできること。(4)病害虫を含め管理ミスが最少ですむ事―などである。

また気象条件では日射、日照、温度、湿度、通風、降雨などに対する準備が必要になる。環境条件では、グリーン全域に太陽光線を100%受け止める環境を必要とする。(樹木などで光が遮られるレイアウトは絶対避ける)

これに時期に応じたエアレーションや散水。また排水や有害物質などの芝に与えるストレスを解消する構造。これらの条件を備えながら、施肥、目砂、散水、更新、転圧など徹底した管理とメンテナンスが要求される。

こうした準備をした中で、(1)ボールの転がりがスムーズで速い。(2)グリーンにボールを支えるだけの弾力性がある。(3)均一な表面であること。(4)降雨やその後でもスムーズなプレーが出来る。(5)ボールマークが出来にくい。などの理想的なグリーンが初めて誕生する。

グリーンキーパーを中心にこれらの徹底した管理態勢を構築しているのである。

健康第一の芝を求めて

ベント芝の根を長く伸ばすために、最適な水分と肥料を科学的に管理する。そして朝、夕必ず全グリーンを3ミリ以下のダブルカットを実施し、速くて、転がりの良いグリーンを常に保つ。

ただ速いグリーンにするならローラーで固めれば簡単だが、それでは芝の寿命に限界が生じ、高品質なグリーンは生まれない。あくまで弾力性に富み、ボールマークもつかない理想的なグリーンが究極の目的だ。そのための日夜を惜しまない努力があって初めてホンモノの高速グリーンとなる。

富里GC誕生の年から約30年のキャリアを誇る常務取締役グリーンキーパーの石井浩貴氏がこう語る。「早川会長が常日頃唱える“愛情”“工夫”“真心”こそが芝の育成そのものと信じています。芝の気持ちになって、何をすれば一番喜んでくれるか。管理者全員がその姿勢で取り組んでいます。芝にはこれでいいという限界はありませんから」

平成30年の4月、富里GCでKGA(関東ゴルフ連盟)の月例会が行われた。男女の実力者100人以上が出場している。このときのスティンプメーターは13.5フィート。まさにマスターズ並みの高速グリーンだった。

そして参加者の大半から「こんなグリーンでプレーできたら確実に日本のゴルフのレベルは上がる。やっとそんなコースが出現した」と高い評価を受けた。

では、高速グリーンにすると何が違うのか。

まず絶対に必要なのは「コースマネジメント」である。特にオーガスタやこのカレドニアンのように複雑なアンジュレーションがあって超高速となると、グリーンの落とし場所を考えなければならない。

それだけではない、そのピンポイントを狙うには、グリーンから逆算して、ティーショットからルートを考える必要がある。マスターズを見れば分かるが、たとえグリーンに乗ったとしても、落とし場所を間違えるとボールはとんでもない方向に転がり、場合によってはグリーンの外へ転がり落ちてしまう。

仮にピンまで100ヤードの距離が残った場合、2段グリーンの上にカップが切ってあれば、同じ面に乗せないとまず2パットで収めるのが至難の業になる。その逆に下の段に切ってあれば、オーバーは禁物。ショートアプローチでも確実な距離感、きっちりとしたショットが要求される。

またパッティングも、ソフトなタッチで芯を捉えないと、簡単に3パットが出てしまう。その代わりタッチと方向性が見合うと、ボールはスムーズな転がりを見せ、気持ちよくカップインする。そう高速グリーンは技術、頭脳、集中力、精神力と人間のポテンシャルをフル稼働する必要があるのだ。

「グリーンを速くすると知的ゲームになる」

という早川会長の言葉はまさに的を射た言葉でもあるのだ。

カレドニアンや富里のグレードが高いのはこの高速グリーンだけでなく、米国とスコットランドをミックスした「モダンクラシック」のレイアウトと、完璧な練習施設だ。

320ヤードのドライビングレンジに、コースと同じレベルの広大なアプローチ練習場。「充分な練習をして、コースを楽しんでください」という気配りが溢れている。そしてスタートは余裕を持たせた8分間隔。すべてに行き届いている。

この高速グリーンを体験したゴルフ評論家の塩田正さん(81歳、HC9)と富里GCの会員でもある塩原義雄さん(68歳、HC5)が口を揃えてこんな感想を述べた。「ゴルフはただ球を打つのではなく、知性や高度なマネジメントが要求されるゲームということが実感でわかりました。これは上級者だけでなく、アベレージゴルファーでもホンモノの楽しさが味わえるという点では同じだと思います」。両氏とも海外のプレーも豊富で、含蓄も深い。プレーを終えた後、まさに「わが意を得たり」の表情が印象的だった。

またこの高速グリーンを両コースの会員の多くは誇りに思いプレーを楽しんでいる。

ゴルフが奥の深い知的ゲームであることはマスターズや全米オープンが証明している。その根源にあるのは磨きぬかれた、“高速”グリーンなのである。

『月刊ゴルフレビュー』平成26年5月20日号より

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