月間ゴルフレビュー コース探訪 に掲載されました


月間ゴルフレビュー【7月号】にカレドニアン・ゴルフクラブの
記事が掲載されました。

ゴルフレビューコース探訪 277
カレドニアン・ゴルフクラブ
(千葉県山武郡)
オーガスタ並みの超高速グリーンと、J・M・ポーレットの
戦略的な設計で日本のゴルフに革命を起こす
起伏に富んで、オーガスタ並みの超高速グリーンに整備の行き届いたフェアウェーとコントラストを描く真っ白な
バンカーや池が美しい13番ホール(パー4)はモダンクラシックそのもの
世界のメジャーが佳境に入ってきた。 男子はマス夕―ズ、全米オープンが終わり、7月には全英オープン、8月には全米プロが控えている。一方女子もANAインスピレーション、全米女子オー プンと激戦を展開し、それぞれにゴルフファンの脳裏に強烈なインパクトを残している。
メジャーの醍醐味は世界最高レベルのコースでの質の高い戦いにあるが、何より決定的なのはスリルとエキサイティングに富んだ高速グリーンでの息詰まるパッティングに尽きる。ただ速いだけではない。縦横にうねるグリーンで技術、知略、精神力と人間力の全てを賭けて凌ぎを削る。メジャーが“格闘技”と言われる所以は、グリーンというリングでの壮絶な戦いを意味しているからでもある。
残念ながら、日本のトーナメントでこんなグリーンはない。それが世界に大きく遅れを取ることに関係者はようやく気付いてきたようだ。
そんな中で唯一世界レベルの超高速グリーンを実現しているコースがある。
本紙でも何度も取り上げている力レドニアンGCと富里GC(共に千葉県山武郡)である。2014年秋から「オーガス夕並み(マスターズの舞台オーガス夕ナショナルGC)の14フィートにチャレンジ」をスローガンにコース一丸となってこの高いハードルに挑戦。不可能といわれる(日本では)この難題を見事にクリア。今や日本中のゴルフ場関係者がこの偉業に注目している。
とはいえ「言うは易く行うは難し」のこの挑戦は並々ならぬ苦労があった。そのノウハウ、企業秘密を今回は陣頭指揮を執る東京グリーン富里カレドニアン株式会社の早川治良取締役会長とスタッフの了解を取り付けて紙上公開をすることにした。これは、コース整備に関心を持つ関係者に大いに参考になるはずだ。
超高速グリーンは血と汗と涙の結晶。 一朝一夕に実現したわけではないが、「日本のゴルフのレベルアップと、ゴルファーに真のゴルフの喜びを味わってもらうため」という早川会長と、コース管理スタッフの心意気にはただただ頭が下がる思いである。
先手必勝を掲げ「自立・研究・工夫」の3本柱を軸に、オーガスタ並みの超高速グリーンを実現して日本のゴルフのレベルアップに大きく貢献するカレドニアンGCと富里GC
この取材のきっかけとなったのは、今年の5月14日に富里GCで行われた関東倶楽部対抗千葉予選会でのことである。 試合での出場者や関係者から「まったく経験のないグリーンスピードで別次元のゴルフをさせられました。あれだけのスピードと変化のあるグリーンの形状ではこれまでやってきたゴルフでは通用しない。確実なパットを収めるためには、ショットから考え、グリーンを外しても安全な場所を考える必要があります。もちろんパットでは方向性、スピードの読み、タッチツチ、距離感、フェースの芯で捉える技術と勇気などあらゆる戦略、戦術が要求されます。難しいけど、ゴルフの醍醐味、面白さを心行くまで味わった。この経験は今後病みつきになりそうです」と称賛の声が渦巻いた。
米ツアー並みの高速グリーンを実現したカレドニアン、富里の両コース
ちなみに大会当日のスティンプメーターは、大雨後にもかかわらず13.3フィート。 これを比較すると日本の男子ツアーでは平均11〜12フィート、女子は10〜11フィート。米男子ツアーが12〜13フィート。訪れるゴルファーは日本の男女プロツアーより速く、米ツアーと同じレベルでプレーしていることになる。
特筆すべきはこの超高速グリーンが試合当日だけではないということだ。評判を聞いて、富里GCにそれ以前のスピードのデータを提出してもらったところ、激しい雨が降った5月10日の午前中で11.2フィート、午後は晴れて13.3フィートになっている。12月から5月まで実に12フィートから13フィートが連日記録されている。これが通常営業日のスピードである。日本のコースの場合一般営業日ではほとんど8フィート以下が普通。
ちなみに平らな場所で13フィートの場合、10メートルの距離なら4メートルの力加減でカップに届くと言われている。まさに“ガラスのグリーン”を味わうことになる。
14フィートに挑戦している早川会長はその理由を次のように語る。「日本のゴルフが世界から大きく取り残されているのはコースのレベルの差、とりわけグリーンはあのマスターズを見ても分かるように13から14フィートが中心です。日本のレベルアップを考えるのなら、ゴルフ場がグリーンの高速化に挑む必要があります。実現するためには高いハードルがありましたがあえて先鞭をつけるために実行に踏み切りました」
14フィートに近づけるためにはどこかで“常識”を破って限界を突破しなければならないと語る。これを実現したのは石井浩貴取締役グリーンキーパーとその下で働くスタッフの存在を抜きにして語れない。
最新の機器を使ってグリーンの状態を見る
早川会長(右)と石井キーパー(左)
早川治良会長
人作り革命で、不可能を可能にした数々の実績
早川会長が高速グリーン実現に関してまず取り組んだのが「人づくり革命」。従来の固定概念から脱却し、未知の世界に挑戦する気概と、未来志向を管理ス夕ツフに浸透させた。
その根幹となるのが「経験的(漠然的)メンテナンスから科学的(合理的)メンテナンス」への移行であり、自身も含めてスタッフに対し「研究・工夫・ 実験(テスト)・分析・記録・ 最適化探求」の貫徹と、今後に残すためのアルバム化である。
「何事も現状に満足しては新しいものは生まれません。今まで誰もやっていないことに挑戦する。それこそ人間の英知が求められます。ただし事を成就するには上からの指示に従うだけでは駄目です。自分自身で観察力を養い、問題点と解決方法を考察し実行する“自立”自分を磨きやるべき仕事について深掘りする“研究”より良い方法や手段がないか、自分の頭で考えてそれを得る“工夫”一人一人のこうした自覚と蓄積が大きなパワーとなって不可能を可能にすると私は信じています」(早川会長)
こうして2014年から「14 フィート」という未知(日本では)の世界への挑戦の幕が切って落とされたのだ。 このプロジェクトの実働部隊長となったのが、石井浩貴キーパーだが、当時の模様をこう語る。「早川会長からこの指令を受けたとき、正直不可能ではと思いました。14フィートなどは前例(日本では)がありませんし、その技術もありません。単に速くするだけなら、ローラーをかけて芝を押しつぶし、表面を堅くすれば出来ます。しかしそれでは芝を痛め、様々な弊害が出ます。芝の育成だけで経験のないスピードを出すのは、現状では至難の業と思えたからです」
科学的なデータを基にテストの連続でマスターズ並の高速グリーンを実現
まるで戦車のような機械がグリーン整備で活躍する
最新の砂の散布機が高速グリーンを作る
だがここで諦めなかったのが石井キーパーの凄いところだった。日本では不可能でもアメリカなどではそれが現実化されている。アメリカで出来て日本で出来ないはずはない。それからが苦闘の始まりである。
石井キーパーはまずコース課のナーセリー(芝生の育成・研究の場所)に14種類のべント芝を選んでそれぞれの芝生について比較研究を数年続けた。折から地球温暖化対策が必要になり、真夏の極限テストを繰り返しながら酷暑に耐えうる芝の研究も始めた。その中で日本ではあまり注目されていない夕イイ(T y e e)種の芝が酷暑に耐え、病気にも強く、へタらない芝でこの地に適していることを突き止めた。
研究・実験はそれにとどまらず、別にナーセリーを設けて選び出した8種類の第4世代の洋芝で種々の研究・実験に入り、現在に至っている。
また夕イイは、芝根が強く、葉が細かくて、垂直に立ち、最小限の刈り高に耐えて理想的な転がりを可能にすることも新しい発見だった。
だが芝は選定できてもまだ難題が残っていた。カレドニアンも富里もグリーンの床構造はUSGA方式 (全米ゴルフ協会のグリーン・セクションが研究・ 開発した粒子の異なる砂利と砂質による床構造)を採用しているが、これも年月を経ると床構造に不純物などが堆積し不透水層が出来やすくなる。その結果芝根が絡み合ったりして、芝の育成に弊害が出る。
そこで早川会長と相談し、エアレーションを毎月一回以上行う手間の掛かる管理手法を取り入れた。
また毎週全ホールのグリーンの表面から20cmほどの砂床をサンブリングし、芝草の細根が健康に育っているか、枯れ死した根が絡まって密集した層の透水性などを調査して、不整箇所があれば改善を行った。部分的にそうした欠陥があれば、18ホールのグリーンで均等な転がりが出ないからだ。“転圧”や“対処療法”ではなく健康な芝の“育成”で恒久的にスムーズな転がりが出なければホンモノの高速グリーンとは言えないと日夜苦闘した。
特殊なグリーンモアが2.8ミリの刈り高の秘密
グリーン床を念入りに調べる石井キーパー
研究・努力の末に朝夕の2.8ミリの刈り高を実現
またスピードは健康な芝で刈り高が短ければ、短いほど転がりが良くなる。カレドニアンも富里も日常的に刈り高2.8ミリまでの水準に達しているが、(日本では3ミリが限度と言われている)それを実現するために最新式の三連モアの刃を極限にまで薄くし、グリーン面の轍をなくすためには乗用モアの夕イヤをウレ夕ンに変更するなどの工夫を施し、更に“2.7”ミリの刈り高を実験している。
早川会長は四季のある日本の芝草管理に対して「先手必勝」を口が酸っぱくなるほどスタッフに言い聞かせている。そのための機材や工夫・実験などにかかる費用は惜しまない方針を貫いている。適正な芝や肥料の選定、施肥、散水、目砂散布、グルーミング(葉先を立てる)グリーン床構造の見直しとやれることは全てやる。最新機械を備え、どんな事態にも対応できる研究、工夫によるデー夕の蓄積。
こうした実績で
カレドニアン・富里両コースのメンテナンスは近代化された新しい領域に入っている。
高速グリーン実現の陰には科学に裏付けされた最新の研究を軸に膨大な費用と時間、労力がかかっているのだ。 それは全国の名門コースや、芝に関心を持つほとんどのゴルフ場のキーパーや支配人が視察に来ていることでも証明されている。
その石井キーパーは「何度も会長と意見の対立がありました。 でも会長からテストを繰り返せと尻を叩かれてやってみると不可能が可能になることが多いのです。それもこれもゴルフに対する深い愛情から来ているのでしょう。あの情熱には頭が下がり、教えられることが本当に多いです。“為せば成る”を今回ほど痛感したことはありません」と感無量の面持ちだ。
マスターズ並みの高速グリーンは早川会長やコース管理スタッフの血と汗と涙の結晶。カレドニアン、富里の“命”であり“魂”こんなグリーンでプレー出来る会員やゴルファーは幸せ一具利に尽きるというものだろう。

(文 宮崎紘一)

月刊ゴルフレビュー 【7月号】(2018年6月20日発行)より抜粋